【薬剤師のSOAP薬歴の記入参考例】薬歴を分かりやすく書く方法を薬剤師が解説。
保険薬局やドラッグストア内の薬局で患者さんに投薬した時、必ず書かなければいけないのが薬歴です。
忙しい最中に、一人ひとりの患者さんの情報を書き留めておかなければいけないので、かなり大変な思いをしている薬剤師も割と多いのではないでしょうか。
この薬歴は、患者さんの大切な情報ですし、次回来局時にも役立つものになるので、分かりやすく丁寧に書かなければいけないのですが、時間的余裕がなく、書いていない薬歴をためてしまった経験も薬剤師にはあるあるなことですよね。
さて、薬歴には服薬指導の内容も記録していきますが、ほとんどの薬局ではSOAP形式を使って記入するのが一般的だと思います。
ただ、このSOAP形式。薬剤師によっても理解がさまざまで、正直何をどこに書くべきなのか迷ってしまう人も少なくありません。
今回は、薬歴のSOAP形式についてお伝えしていきます。また、どのように書けば分かりやすいのかということも例を使って説明しようと思います。
薬局で薬歴を書く際の参考にしていただければ幸いです。
Contents
薬歴にはどのようなことに注意して書けばいいの?
「薬剤服用歴管理指導料」の算定要件には、患者さんに確認すべき事項が掲げられています。
服薬指導の要点、服薬状況、副作用、残薬確認、体調変化、併用薬、既往歴、他科受診、後発品の意向、お薬手帳の有無、飲食物などです。
これらのことを確認して、薬剤師はその指導内容や患者さんの訴えを薬歴には記載しなければなりません。
「何百人も来る患者さんの薬歴に、こんなに多くの事項を毎回書いている時間があるわけがない。」とたいていの薬剤師なら思うのではないでしょうか?
それでは、どのようにすればこれらの事項を少ない時間で記入すればいいのかについて次の項目で考えていきましょう。
時間短縮のためにできること
<スタンプを作る>
電子薬歴になっていて確認項目のチェックボックスがあらかじめ作られていればいいですが、紙薬歴の場合は、上記の確認項目について書き込むことは時間的に非常に難しいですよね。
その場合は、「残薬確認(□なし□あり( 錠)、併用薬(□なし□あり)、既往歴( )、他科受診(□なし□あり)、後発品の意向(□なし□あり)、お薬手帳(□なし□あり)」のようなスタンプを作っておいて薬歴に前もって押しておくことをおすすめします。
私が以前勤務していた薬局はこのような方法をとっていて、チェックボックスにチェックすればある程度のことは記載できるようになっていました。
チェックボックスで記載できない服薬指導や副作用などについての情報は、SOAP形式で別途書くようにすれば、整理しやすくなりますし、時間短縮にもつながるのではないでしょうか。
<メモしておく>
多くの患者さんで混みあっている薬局は、一人一人に薬歴に書き込んでいるわずかな時間さえないというところも少なくありません。
その場合は、一人ひとりの患者さんの要点を忘れないようにメモをしておいて、あとでまとめて薬歴に書くようにします。
ただ、薬歴に記入するための時間をもらえる薬局や、きちんと時間外手当をつけてくれる職場ではこの方法でも問題ないですが、中にはそのような時間を取ってくれない薬局も実際にはあります。
会社の方針や管理薬剤師の器の大きさにもよると思いますが、薬歴の時間を別にとることができない職場でしたら、自分を守るためにも時間がかかっても一人ひとり薬歴を書いていった方がいいですよ。
<箇条書きで端的に>
時間短縮をするためには、SOAP形式の中は、箇条書きで端的に書くことが必要です。
一文が長いと、書くのにも読むのにも時間がかかりますし、重要な情報をすぐに見つけることも難しくなりかねません。
とにかく長い薬歴を書く人と一緒に働いたことがありますが、何を書いてあるのか、何を言いたいのかが分からず、他の薬剤師から苦情が出たこともありました。
大切なことだけ取り出して無駄なことを省くような文章の工夫をすることがとても大切です。
<SOAP形式で書かなくても実はいい>
薬歴と言えばSOAP形式で書くことが必要と思っている薬剤師も実際に多いと思いますが、実はSOAP形式でなくても薬歴は書けます。
SOAP形式で書けば、誰が見ても何がどこに書いてあるのか見つけやすいという利点があるため、多くの薬局で採用されているだけのことです。
情報があまりない患者さんだったり、SOAP形式で書くよりも普通の文章で書いたほうが早いというケースの場合には、SOAP形式を使わずに書いても大丈夫ということです。
SOAP形式を確認してみよう
さて、SOAP形式で薬歴を書く場合ですが、服薬指導が複雑になると何をどこに書いていいか迷ってしまうこともありますよね。
ここでもう一度、SOAP形式を復習してみましょう。
(1)Subjective data
この項目には、主観的な情報である患者さんの話した内容や訴えを書きます。
薬剤師によっては、患者さんの話した口調のまま書き残す人もいます。
(2)Objective data
この項目には、客観的な情報である検査データや処方内容、患者さんの状況などを書きます。
保険薬局では検査データをあまり見ることがありませんし、処方内容はすでに書いてありますので、患者さんのコンプライアンス状態や症状などを書くことが多いです。
(3)Assessment
この項目には、Subjective dataや、Objective dataから薬剤師が判断・評価したこと、または意見などについて書いていきます。
Assessmentは薬剤師の見解を書くところですので、時には薬学的知識や医学的知識を必要とされることもあるとても重要な項目になります。
薬剤師ならではの見解が書けるように、普段からスキルを磨いておくことも大切です。
(4)Plan
この項目には、次回どのようなことを確認したらよいのかという計画について書きます。
また、SOAPの中で指導内容をどこに書いたら良いのか分からないという声もよく聞きますが、服薬指導内容などもこの項目に書いても大丈夫です。
実際の例を紹介
それでは、実際にあった服薬指導を例に、SOAPで薬歴を書いてみましょう。
薬剤師:前回からインスリン注射がでましたが、問題なく注射できていますか?
患者さん:針が痛くないから注射は問題ないけど、血糖測る方の針、あれが痛くてね。あんまり血糖値測りたくなくなっちゃうんだよね。
薬剤師:血糖を測る針は、インスリンの針よりも太いですからね。測る時指の腹のところで測っていませんか?
患者さん:測ってるよ。パンフレットにもそう書いてあったし。
薬剤師:今度から指の側面で測ってみてください。指の腹はたくさんの神経がつまっているため、痛みを感じやすいですが、側面だと驚くほど痛みが少ないですよ。
患者さん:いいこと聞いた!やってみるよ!
薬剤師:インスリンは忘れずに打てていますか?
患者さん:忘れてないよ。食前にちゃんと打ててる。
薬剤師:低血糖などは大丈夫ですか?
患者さん:低血糖あった、あった!このまえなんて外で起きちゃってさ、ブドウ糖持ち歩いていないから自動販売機でジュース買おうと思ったんだけど、手が震えちゃって、お金を入れるのに苦労しちゃった。
薬剤師:ブドウ糖は必ず持ち歩いてください。手が震えるのは低血糖症状の一つですが、もっとひどくなると震えも増してジュースが買えないことになるかもしれません。また、そのまま放っておくと倒れてしまうことも考えられます。低血糖は血糖値が下がってきているという良い印ですが、いつでも対処できるようにブドウ糖は持ち歩いてくださいね。
患者さん:そうか。ブドウ糖ね。でもブドウ糖の粉って飲みにくいよね。チョコレートとかじゃダメ?
薬剤師:チョコレートは脂肪分があるので低血糖をすぐに改善できない可能性が高いんです。キャンディーも溶けるまで時間がかかりますし、万が一倒れた時に喉に引っかかる恐れもあってあまりお勧めしません。ラムネタイプのブドウ糖か、ブドウ糖が入っているビスケットなど、かみ砕けるものがいいですよ。
患者さん:分かった!今からスーパーに行ってちょっとみてくるよ。
薬剤師:他に質問などはございませんか?
患者さん:大丈夫。いつもありがとうね。
薬剤師:いえいえ。お大事になさってくださいね。
<薬歴に書くSOAP形式>
S:
インスリン注射は問題なく打てている。
血糖値の針が痛くて血糖値を測りたくない。
低血糖があり自販機でジュースを買って対処したが、買うときに手が震えた。
【ここには、患者さんが訴えていた内容を整理して書きます。患者さんの言ったことをすべて書くのではなく要点だけを書くようにしましょう】
O:
インスリンはきちんと打てている。
血糖測定に消極的。
低血糖に関する知識や処置の方法が不完全。
【客観的な情報として、患者さんの状況や症状を端的に書きます。コンプライアンス状態についても記載しておくととても便利です。】
A:
インスリンは問題なく使用できており、アドヒアランスは良好。
血糖測定の針が太く痛いということから血糖測定を拒否する傾向があり、そのせいで低血糖に気付かずに外出してしまった可能性もある。
【薬剤師から見た評価を書いていきます。患者さんは、血糖測定をあまりしたくないことと、低血糖が起こったは別々なこととして話していましたよね。それを薬剤師が、「血糖測定をしなかったから低血糖気味であることに気付かずそのまま外出し、手が震えるほどの低血糖が起きてしまったのではないか。」という薬剤師としての見解を導き記入していきます。
P:
血糖測定の時には指の側面で測定すると痛みが軽減できることを説明。->やってみるとのことだったので、次回血糖測定がきちんとできているかを確認。
低血糖に関しては、ブドウ糖を持ち歩くことを指導、チョコレートやキャンディーでなく、かみ砕けるラムネタイプやビスケットを勧めた。ー>次回低血糖が起こったか、起こった時に対処できたかを確認。
【次回確認してほしいこととともに、服薬指導した内容についても書いていきます。次回投薬を担当する薬剤師は、このPlanの項目に注目することが多いので、指導内容を記載しておくと2度同じ指導をせずに済むというメリットもあります。】
まとめ
今回は、薬歴に書くSOAP形式を中心に見てきました。
SOAP形式を使った書き方が曖昧だった人も、そのルールを再確認することができたと思います。
SOAP形式は、調剤薬局だけでなく、病院での病棟服薬指導時にも使用しますし、また薬剤師だけでなく、医師や看護師もこのSOAP形式を使ってカルテに記載することも多いです。
SOAP形式で書くことに慣れておくと、自分が薬歴を書くときだけでなく、他の薬剤師や医療スタッフが書いた内容を把握する際も、役に立つと言えるのではないでしょうか。
SOAP形式での書き方をもう一度よく勉強し、明日からの仕事で活用してくださいね。